身を委ねる側に回りたい日がある。仕事で決める側にいる時間が長いほど、その反動は強くなる。八月のあの日は朝から雨で、傘を差すか迷う程度の細かい雨がずっと降っていた。気圧のせいか頭が重くて、そういう日ほど自分で組み立てるプレイをしたくない。
粋美を選んだのは送迎があるからでもあった。指定の場所で車に乗り込んで、そこから先は運ばれるだけ。到着してから店舗移動を告げられて、また車に乗る。この「運ばれている」時間が、こちらの主導権をあらかじめ削いでくれる感じがして嫌いではない。
待合はこの日たまたま一人だった。平日なのに他店は賑わっていたのに、と思っていたら、階段をコツコツと降りてくる靴音が聞こえた。音が近づいてくる数秒がいちばん緊張する。相手の顔もまだ見えていないのに、もうこちらのペースではなくなっている。この瞬間が堪らない。
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店に着いてから移動を告げられて、また車に乗る。この二段構えは初めてだと戸惑うが、慣れると考えなくていい時間が増えるだけなので嫌いではない。窓の外は雨で、フロントガラスのワイパーの音だけが車内に響いていた。
えま嬢の支配力
アイドルの顔で降りてくる
白いワンピースだった。目がはっきりしていて、小顔で、笑うと歯が見える。写真そのままの顔が階段の下に立っていて、正直、店を間違えたのかと思った。この顔の人がこれから同じ部屋に入るという事実が、頭の中でうまく処理できない。
手を繋いで階段を上がる。柔らかい手だった。こちらの指が少し震えているのが自分でも分かって、それが情けないやら嬉しいやら。首が細くて白い。歩いているだけなのに視線の置きどころに困った。
言葉で崩される
会話が先に来るタイプだった。天気の話から始まって、こちらに質問を投げてくる。明るくて素直で、緊張がほぐれていく。ここまでは普通にいい子だな、で終わる話だ。
問題はその後で、部屋の前で靴を並べるためにしゃがんだとき、上から見下ろす角度で完全に不意打ちを食らった。そこから部屋に入るまでの十数秒、何を話したか覚えていない。顔と、口から出てくる単語の落差。これが後々こちらを崩していくことになるのだが、この時点ではまだ何も知らなかった。
ここから先は
入室してお土産を渡すと、素直に喜んでくれた。空調のリモコンを触りながら温度を調節している背中を見ていられなくなって、後ろからハグした。細い。ギュッとしたら、背中に腕を回してくれた。
見つめ合って最初のキス。「服、脱がせちゃおっと」とおどけながらこちらの服に手をかけてくる。テンポが速い。次の瞬間にはくるっと背を向けて「私も脱がせて」と来る。この主導権の渡し方と奪い方が、たぶんこの子の一番の武器だ。
ここから先、痛みの向こう側というよりは言葉の向こう側に連れていかれることになる。中身は限定公開のほうに全部書いた。
身を委ねた結果
結論から言えば、この日は最初から最後まで相手のペースだった。抵抗する気も起きなかったし、抵抗しないほうが気持ちいいことを分かってやられている感覚がずっとあった。ランカーと呼ばれている理由が、終わってみればよく分かる。
不満があるとすれば店ではなく自分の側で、この日は雨で移動に手間取ったぶん、部屋に入る前に汗が引ききっていなかった。送迎を使うなら早めに乗ってしまって、車内でしっかり落ち着いておいたほうがいい。次はそうする。
スタッフの応対は終始丁寧で、ロビーで送迎を待つ間も居心地が悪くならなかった。こういう部分が緩い店だと、部屋を出た瞬間に現実に引き戻されて余韻が飛ぶ。ここはそれがなかった。帰りの車の中でぼんやりしていられる時間まで含めて、悪くない一日だった。