こういう日は、自分で何かを決めるのが億劫になる。判断を全部よそに預けて、言われたとおりに動きたい。指名の基準もそこにある。強めの子、こっちの手綱を握ってくれる子。今回もその線で選んだつもりだった。
笑った瞬間だけ、写真の印象が全部ひっくり返る
綺麗系の顔をした痴女
ドアが開いて、まず視線の高さに驚いた。立ち上がると目線がほとんど同じところにある。細くて、縦に長い。ヒールを脱いだあともそのままだった。
顔立ちは宝塚の男役みたいな系統で、眉と目に力がある。ところが笑うと一気に崩れる。冷たそうという写真の印象は10秒で消えた。「今日めっちゃ降ってましたよね、髪ぐしゃぐしゃになりません?」と、こっちが何か言う前に喋り出す。ハキハキしていて、間の取り方がうまい。少し前までテレビの制作会社にいたと聞いて納得した。段取りの組み立て方が妙にスマートなのは、たぶんそのせいだ。
この業種に入ったのはつい最近で、その前はメンズエステにいたらしい。だから手の使い方だけは最初から出来上がっている。
荷物から自前のボディソープを出してきたのには少し笑った。備え付けは刺激が強くて肌に合わないんだそうだ。マウスウォッシュまで持参していて、そこまでやるのかと思った。部屋が狭くて、洗い場で二人並ぶと肘がぶつかる。それを「せまっ」と言いながら押し込んでくる距離感が、この時点で既におかしい。
洗いは丁寧。ただ泡を流すときの指の力加減が最初から最後まで一定で、そこだけは物足りない。前職の話を聞いたぶん、勝手に期待しすぎたのかもしれない。
ここから先は、こっちが決めることが何もなくなった
五分で終わった話
主導権が移った瞬間
ベッドに上がった瞬間、別人になった。
さっきまで爽やかに喋っていた人が、こっちの首に腕を回してキスしてくる。舌の入れ方が深い。息継ぎのタイミングまで向こうが握っていて、離してくれない。キス魔という言い方があるけれど、ここまで来ると趣味の領域だと思う。二、三分は解放されなかった。
ここまではまだ想定内だった。攻められている、支配される快感、そういう文脈で処理できていた。
崩れたのはその次だ。
こっちが下に降りて舌を使い始めたら、返ってくる反応が明らかに過剰だった。太ももが跳ねて、腰が浮いて、シーツを掴む。声を殺そうとして殺しきれていない。パイパンで逃げ場がないぶん、どこを舐めているかが全部本人に伝わってしまうのも大きいんだと思う。
ビクン、と大きく跳ねたあと、こっちの頭を両手で押さえてきた。逃げるためではなく、位置を固定するためだった。
そのまま自分で皮を剥いて、指を二本引っ張ってきて「入れて」と言う。おねだりというより指示に近い。この瞬間が堪らない、と思ったのと同時に、あれ、と思った。委ねに来たはずが、いつのまにか道具として使われている。舌と指の役割分担まで向こうが決めていて、こっちは指定された場所を指定されたリズムで動かしているだけだった。
指を入れながら上を舐めると、反応が一段変わった。内側が締まって、指が押し戻されてくる。「それ、それです」と短く言ったあとは、言葉にならなくなった。
境界線がなくなるまで
一度落ち着いてから、ゴムの話にはならなかった。そういう店だと分かって来てはいるものの、実際に何も挟まないまま流れていくと、頭のどこかがざらつく。そのざらつきごと押し流されるのが、この手の店の怖いところだと思う。
正面から入れた瞬間に、まずいと分かった。
質感が異様に良い。入口はぬるっと受け入れるのに、奥に行くほど締めてくる。圧が強い、という表現だと足りない。動かなくても勝手に持っていかれる。
息を止めて耐えているのを、向こうは分かっていた。分かったうえで下から腰を使ってくる。「我慢してます?」と耳元で聞かれて、返事をしようとしたら声が裏返った。ここで止めればよかった。抜いて、体勢を変えて、時間を稼ぐ。普段ならやっている。
やらなかった。というより、やらせてもらえなかった。腰に足を回されて固定されて、そのまま下から数回突き上げられて終わった。
推定五分。いや、五分もなかったかもしれない。
暴発、という言葉を自分に使う日が来るとは思っていなかった。情けないし、正直かなり恥ずかしい。痛みの向こう側まで連れて行かれるつもりで来て、その手前で勝手に転んだ形になる。受け身でいたい人間にとって、これはいちばん格好の悪い負け方だと思う。
ただ、そのあとの態度がもっと効いた。息が整ってからも身体を離さず、汗が引くまでずっと首筋に唇を当てられていた。終わった相手に対する処理としては丁寧すぎて、逆に居心地が悪い。
そのあと
謝った。「早かったですよね、気持ちよすぎて我慢できませんでした」と。こういうとき、社交辞令で「そんなことないですよ」が返ってくるのを半分は期待している。
返ってきたのは違った。
「うーん、すごく気持ち良かったから、もうちょっと頑張って欲しかったかな! アハハハ」
明るく、まっすぐ、フォローする気がまるでない。この正直さがたぶん一番の武器だと思う。言葉で追い込んでくるタイプのS嬢より、よほど効いた。
終わったあと、この人はずっと機嫌が良かった
そのあとは普通に喋った。出身は山陰のほうで、東京に出てきてしばらく経つらしい。客の前では電子タバコにしているけど普段は紙の煙草だと言って笑っていた。細い指でセブンスターを持つ絵が妙に似合う。
帰りは終電に間に合わず、結局タクシーになった。雨はまだ降っていた。
体力に自信のある人が行くべき相手だと思う。こっちみたいに受け身でいたい人間が行くと、受け身のまま轢かれて終わる。それが嫌だったかというと、まったく嫌ではなかったのが問題で、たぶんまた予約する。
この子の名前とお店は、登録者限定エリアに書いた。同じ轢かれ方をしたい人だけどうぞ。