金曜の21時、仕事を片付けてから鶯谷に降りた。この日は最初から受け身で行くと決めていた。こちらが攻める側に回ると、快楽の速度も終わり方もぜんぶ自分の都合で決まってしまう。それがつまらない。誰かの手のひらの上で転がされたくて、久しぶりに知らない相手を選んだ。
駅前のコンビニで水を買って、指定された部屋に入る。ユニットバスの脇が妙に狭い間取りで、コートの置き場所に一瞬焦った。終電まではまだ余裕がある。あとは待つだけだった。
坂を下りきったあたりの明るさ
支配者の顔をしていた年下
ドアの向こうに立っていたのは、身構えていたのとは別種の顔だった。幼さの残る目元、笑うと持ち上がる口角、背中まで落ちる黒髪。年下だとひと目で分かる。分かるのに、部屋に入ってからの数分はずっと向こうのペースだった。
服を脱ぐ手つきに躊躇がない。色の白さは照明のせいだけではなさそうで、肩から腰へ続く線に余計な影がない。お腹は平らで、くびれから尻へ向かう張りだけが年齢を主張してくる。手入れの行き届いた下腹部には、隠すものが何も残っていなかった。
座る前から質問が飛んでくる。仕事は何をしているのか、この街には慣れているのか、今日は何時まで空けてあるのか。息継ぎの隙がない。こちらが黙っていると、その沈黙の上にまた言葉が積まれていく。
「そんなに緊張しなくていいですよ」
黙っている理由を緊張だと解釈したらしい。違う。主導権がもう自分の手にないことを、頭の中で確認していただけだ。それを口に出すのは少し恥ずかしいので、曖昧に頷いておいた。
笑うと一気に幼くなる
服従の記録
主導権が移るまで
シャワーから戻ると、先にベッドの端に座って待っていた。バスタオルを取られ、押されるように仰向けにされる。ここから先はもう、こちらの番ではない。
最初に来たのはキスだった。顔を寄せて、こちらの反応を確かめながら浅く、途中から角度を変えて深く。舌が入ってくるタイミングが向こう任せで、こちらは口を開けているだけになる。恋人みたいな距離の詰め方をされると、金を払っている自覚が薄れていく。
首筋から始まった唇が、鎖骨、胸、脇腹、腰骨と順番に落ちていく。指先が先に道を作って、その上を舌がなぞる。動こうとすると手首を軽く押さえられた。動くな、という合図だと理解するのに三秒かかった。
小さな乳首を舌先でぺろりと転がされて、勝手に息が漏れる。この瞬間が堪らない。
そのまま下へ降りていく。ねっとりと絡めてくる舌の使い方が、年齢に対して不釣り合いなくらい丁寧だった。口に含まれた瞬間、思考が一度飛ぶ。喉の奥まで迎え入れて、そこから根元へ向けて舌を這わせる。玉を口に含んだまま、上目でこちらを見上げてくる時間が長い。見られていると分かっているのに、目を逸らせない。
ただ、力加減はまだ荒い。二度ほど歯が当たりそうになって、そのたびに現実へ引き戻された。止めてくれとは言わなかったが。
境界線が消えた後半
上に乗ってこられたところから、記憶の順番が怪しくなる。
そのまま何も挟まずに繋がって、腰を落とす速度をこちらの反応で調整してくる。狭い。締め付けが強くて、動かれるたびに背中が浮いた。見上げると笑っている。こちらが眉を寄せているのを、明らかに面白がっている顔だった。
「まだ我慢できます?」
できるわけがない。それでも頷いてしまったのは、この相手の前で先に落ちるのが悔しかったからだと思う。支配される快感というのは、たぶんこの往生際の悪さとセットになっている。
一度だけ、こちらから攻める許可が出た。脚の間に顔を埋めると、それまでの余裕が急に消える。指を添えて内側を撫でながら舌を動かすと、腰が跳ねてシーツを掴む手に力が入った。声が高くなっていく速度が異様に速い。二度、三度と続けて上がって、そのたびに膝がこちらの頭を挟んでくる。
ただ、それを許したのも向こうの采配だった。息が整うと、また上から押し戻される。
横向きに倒され、斜めから差し込まれる角度に変わる。壁が硬い。奥に届くたびに声が上がって、その声で自分の限界が早まっていく。後ろから抱えられた頃には、もう膝に力が入らなくなっていた。腰骨を掴む手だけが妙に強い。
最後は正面に戻された。目を合わせたまま、腕を首に回されて逃げ場をなくされる。
もう、ダメだ。
果てた後もしばらく離してもらえず、汗が引くまで抱き込まれていた。痛みの向こう側まで行く必要すらなく、優しさと勢いだけで完敗していた。
余韻
終わってから、手を握ったまま少し話をした。この街に立つのは今週が初めてで、叶えたい目標があって、そのために短い期間だけ稼ぐつもりらしい。話す速度は相変わらずだったが、中身には芯があった。