電マを握らされていたのはこっちだった。鶯谷デリヘル、約160cmの20代前半とNN確定の夜
今夜の題目は、普段なら選ばない道具だった
七月の半ば、金曜の日付が変わったあたり。仕事帰りの飲み会が妙に長引いて、家まで帰る気力だけがきれいに消えていた。梅雨明け前の蒸し暑さで、山手線を降りたときにはシャツが背中に貼りついている。
電マのオプションを付けたのは、たぶんその蒸し暑さのせいだ。普段は頼まない。あれは責める側が握る道具で、こっちが持っても仕方がないと思っていたから。
このときは、まだそう思っていた。
ドアを開けた瞬間、観察されていたのはこっち
部屋に入ってきた子は、写真の顔をそのまま持ってきていた。小さい顔に目だけが大きくて、鼻筋がすっと通っている。作り物めいたところがどこにもない。整った子にありがちな、隙のなさで人を遠ざける空気もなかった。
代わりにあったのは、いたずらを思いついた子どもみたいな目だ。
「え、なんでそんな端っこに座ってるんですか」
座って十秒で笑われた。ソファの端で背筋を伸ばして待っていたのが、よほどおかしかったらしい。この時点でもう読まれている。会話のテンポが速く、こっちが返す前に次の球が飛んでくる。頭の回転で押してくるタイプだ。この間の取り方は、練習してどうにかなるものじゃない。
肌は白い。細いのに骨っぽさがなくて、抱き寄せると胸のところだけ手触りの質が変わる。押し返してくる張りと、指を沈めたときのやわらかさが噛み合っていない。触っている側が困る種類の胸だった。
ついでに書いておくと、脚の付け根まで手入れが行き届いている。処理の跡が荒れていないので、直前に慌ててやった感じでもない。こういう細部が雑じゃない子は、だいたいプレイも雑じゃない。
明け渡すまでを、順に
委ねる前の三十分
シャワーは一緒に入った。背中を流されている間ずっと喋っていて、途中で「北陸の方の出身なんですよ」と言われた。訛りはほとんど残っていない。飲食のバイトと掛け持ちしていて、こっちに出るのは週に二回くらいだと。
湯を出したまま、背中に胸を押し当てられた。泡越しでも輪郭がわかるくらい張っていて、振り返ろうとすると肩を押さえて止められる。「まだですって」と笑われた。この時点で、順番を決めているのは向こうだ。
ベッドに戻ってからも、しばらくは押し付け合いのような時間が続いた。こっちが手を伸ばすと、その手を取って自分の胸に当ててくる。乳首は色が薄くて小さいのに、指が触れた瞬間に肩がビクンと跳ねた。声を我慢しようとして、失敗している。ここで一瞬、優位に立ったと勘違いした。
「ねえ、あれ持ってきてるんですよね」
頼んだのはこっちなのに、催促されている。
境界線が溶けたところ
スイッチを入れると、ぶうんと低い音が部屋に落ちた。太ももの内側から少しずつ上げていく。最初は力加減を間違えたらしく、「痛い痛い、そこ直接すぎます」と笑いながら腰を逃げられた。この手の道具を使い慣れていないのが一発でバレている。情けない。
角度を変えて、布を一枚挟むくらいの当て方に切り替えたら呼吸が変わった。
喋る量が減っていく。さっきまで途切れなかった軽口が単語になり、最後は息だけになった。腰の位置を自分でずらして、当たる場所を微調整してくる。こっちは道具を持たされているだけで、どこに当てるかを決めているのは握っている側じゃない。太ももの内側が細かく震えているのが、柄を通して伝わってきた。
そこから先は、完全に外側へ置かれた。
「指、入れながらして」
要望というより指示だった。言われたとおりにする。中は熱くて、ぐちゅ、と鳴るたびにぬるぬるしたものが手首まで伝ってくる。振動が指の側にも回ってきて、自分の手なのに自分のものじゃない。腰が浮いて、シーツを掴んで、それでも目だけはこっちを見ている。従わされているのはどう考えてもこっちの方で、この構図が堪らない。
途中で指を抜いて、そのまま自分に替えた。何も着けていない。止められなかったし、止める理由が向こうからも出てこなかった。
入れた瞬間の締まり方で、もう先が見えた。
…もう、ダメだ。
振動は下腹に当てたまま。中が痙攣するたびに根元まで持っていかれる。声が高くなり、言葉になっていない音ばかりになって、最後は掴まれた腕がやばいくらい痛かった。痛みの向こう側に落ちる、という言い方をよくするけれど、この夜は順番が逆だった。落ちてから、腕が痛いことに気づいた。
そのあと、始発まで
終わってから、汗を拭きながら三十分近く喋った。さっきまでの支配的な気配は跡形もなく消えていて、バイト先の店長の愚痴を延々と聞かされた。この落差がずるい。
帰り際、ドアの前でキスをされた。営業だとわかっていても効く。
エレベーターのボタンを押してから扉が閉まるまでの数秒が、やたら長かった。もう一度部屋に戻りたくなるやつだ。
外に出たら空が白みかけていて、電車はまだ動いていなかった。コンビニで冷たいお茶を買い、駅前の階段で飲みながら、オプション代を余計に払ったことを思い出した。惜しい気持ちがなかったと言えば嘘になる。財布は軽い。それでも、あの一言を買ったと思えば釣りは来る。
一つ引っかかったのは部屋のエアコンで、汗が引いたあとは素っ裸で寒いくらいだった。店の責任ではないけれど。
この子の名前と、たどり着ける場所は限定エリアに置いておく。