この界隈で長く遊んでいると、指名料という数字がある種の値札に見えてくる。無料の子で痛い目を見たことは一度や二度ではない。かといって特別指名料が一万円という女性が、その額に見合っていたかというと、これも怪しいものだ。半年もすれば辞めるか、指名料がずるずると下がっていくかのどちらかである。
だから最近の私は、中間の値をつけられた女性ばかりを選んでいる。四千円。高くもなく、安くもない。店が「この子には自信がある」と控えめに宣言しているような、そういう数字だと勝手に思っている。
土曜の夕方だった。午後いっぱいを潰す予定もなく、仕事は前日で片付けてあった。外は日が傾いてもまだ暑い日で、駅前のコンビニで冷えた水を買ってから電話をかけた。待ち時間は三十分ほど。徒歩で坂を下りながら、そういえばこの街に通い始めて何年になるだろうと、どうでもいいことを考えていた。
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扉の向こうに立っていたのは、写真とは別人だった
ノックの音のあとに顔を出したのは、宣材の真顔とはまるで結びつかない、よく笑う女性だった。おっとりしているわけではない。むしろよく喋る。こちらが黙っている隙がないほど喋る。四十を過ぎた男が若い女性の勢いに押されて、気づけばこちらまで元気になっていた。
本人の弁によれば、この手の店で働くのは今回が初めてらしい。手持ちの写真がなくて、面接のときに撮った一枚をそのまま使われているのだという。「あの写真、緊張してただけなんです」と口を尖らせていた。なるほど、そういうことか。
普段は美容クリニックに勤めているという話も出た。この手の申告は話半分に聞くことにしているので、少しばかり意地の悪い質問を混ぜてみたのだが、報奨金の仕組みまで淀みなく返ってきた。嘘をつくにしては細部が具体的すぎる。本当なのだろう。
誰に似ているかと問われても、芸能人に疎い私には答えられない。ただ、この街で会ってきた女性のなかでは頭ひとつ抜けて整った顔立ちだった。顔が小さい。体は細い。腰から尻にかけての線がきれいで、髪はサラサラの暗い茶色。すれ違いざまに良い匂いがする。この値付けは安すぎたのではないかと、余計な心配をしたくらいだ。
部屋は狭い。この街の値段なりの部屋である。だがこの日はそれが気にならなかった。
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二十三時までの、二時間に満たない記録
シャワーの前に交わした他愛のない話
服を脱ぐ前に、まず座って話をした。私はいつもそうする。今週いっぱいは勤め先が夏休みなので集中して働いて、そのあとは週に二、三日のペースに落とすつもりなのだと彼女は言った。予定を先まで話してくれる女性は、こちらを客としてきちんと数えている。悪くない兆候だ。
浴室は二人で入るには手狭で、肘がぶつかるたびに彼女が笑った。背中を流す手つきはまだぎこちない。慣れていないのが手のひらから伝わってくる。それを惜しいと思う気持ちはなかった。むしろこの不器用さが、あと数か月もすれば消えてしまうのだろうと思うと、今日ここに来たことに意味があった気がした。
肌の温度が変わってから
ベッドに戻って、正面から抱き寄せた。肌が、これは表現に困るのだが、もちもちしている。色が白くて、押し返してくる。若い女性の肌というのはこういうものだったかと、久しぶりに思い出させられた。
口づけから始まった。この店の女性は事務的に済ませる人も少なくないのだが、彼女は違った。角度を変えながら深く重ねてくる。舌の動かし方に段取りの匂いがしない。息が上がってきて、こちらの首の後ろに手が回ってから、ようやく体の力が抜けたのがわかった。
胸は、大きくはない。BとCの境目といったところか。だが形が良い。仰向けにさせても崩れず、輪郭が残る。乳首は淡い色をしていて、指先で転がすと肩が跳ねた。「そこ、弱いんです」と小声で言われたので、こちらとしては当然そこを続けることになる。声を殺そうとして、殺しきれずに漏れる類の反応で、演技を疑う余地がなかった。
下に手を移すと、毛が一本もない。処理ではなく、もとから何もないような滑らかさだった。触れる前から既に濡れていて、指を這わせるとぬるりと滑る。ここも色素が薄い。遊んでいない体というのは見ればわかるもので、この日の私はその一点にずいぶん興奮していた。
指を沈めると、抵抗が強い。入口が締まっていて、奥まで通すのに時間がかかった。中は熱く、指の腹に絡みついてくる。彼女は枕を掴んで、脚を閉じようとしては私に押し戻される、というのを何度か繰り返していた。息が細く、速い。太腿がびくびくと痙攣し始めたところで、一度手を止めた。
口でしてもらう番になったが、ここは正直まだ発展途上だった。技術という点でいえば、高級店の女性のような計算された動きはない。歯が当たる場面もあった。ただ、こちらが「もう少しゆっくり」と伝えると、そのとおりに直してくる。素直なのだ。指示が通る女性というのは、技巧よりよほど価値がある。三分もすれば、彼女なりのリズムが出来上がっていた。上目遣いでこちらを確認しながら続ける癖があって、これが効いた。
そのまま重なった。隔てるものは何もなかった。彼女のほうから腰を引き寄せてきたので、こちらも遠慮する理由がなくなった。入口の締まりが強く、途中で一度息を整えなければならなかったほどだ。奥に届くと彼女の背中が反って、私の腕を掴む力が急に強くなる。「待って」と言われて動きを止めると、しばらくしてから自分で動き始めた。こういう主導権の受け渡しが自然にできる女性は、経験の長短とは別のところに何かを持っている。
正面で向き合ったまま、時間をかけた。汗ばんだ肌が張りつく。髪が私の顔にかかって、そのたびに良い匂いがした。腰を落とす角度を変えるたびに声の高さが変わって、どこが効いているのかが手に取るようにわかる。終盤は彼女のほうが先に限界で、脚を絡めたまま動けなくなっていた。堪らなかった、というのが正直なところだ。中に留まったまま終わりを迎えて、しばらくどちらも口をきかなかった。
八十分という枠を取ったのは失敗だった。これは店の問題ではなく、私の見立ての甘さである。写真から想像した程度の女性なら八十分で十分だったが、実際に会ってしまえば話は別だ。次は最低でも百二十分にする。
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支度を終えた彼女が最後に言ったこと
もう一度シャワーを浴びて、服を着る間もずっと喋っていた。次の出勤の話、電車で通うのが少し遠いという話、夏休みが明けたら週二、三日になるという話。時計を見ると、まだ二十三時には間があった。
「また来てくださいね、ちゃんと覚えておくので」と彼女は言った。この台詞自体はどこの店でも聞く。ただ、この日の言い方には営業の匂いがしなかった。
外に出ると風が出ていて、来たときより幾らか涼しかった。駅までの道で軽く食事を済ませ、その間ずっと次の予約をいつ入れるかを考えていた。四千円という数字は、この日に関していえば店側の値付けミスだったと私は思っている。
この女性の名前と、彼女に会える店の名。そして公式ページへの道筋は、有料エリアに記した。実際に支払った額と、私が次に狙っている枠についても添えてある。