金曜の仕事帰りに飲み会が一件入っていたのだが、幹事に頭を下げて抜けさせてもらった。雨が降っていた。傘を差すほどでもない、シャツの肩がゆっくり湿ってくる種類の雨だ。タクシーを使うほどの距離でもない。鶯谷の改札を出てから道を一本間違えて、コンビニの軒先で地図を見直す羽目になった。二十分の遠回り。四十を過ぎた男が濡れた靴でうろついている姿は、我ながら情けない。
この街には月に一度ほど足を運んでいる。前回は夏の盛りで、部屋に着いた頃には自分のほうが先にシャワーを浴びたいと言い出す始末だった。暑い日の風俗ほど間の抜けたものはない。今夜は逆に指先が冷えている。少しの待ち時間のあいだ、受付の人がタオルを一枚多く出してくれた。こういう気の回し方をされると、この店は悪くないと思ってしまう。
チャイムが鳴って扉を開けると、髪を耳の下で切り揃えた女性が立っていた。ショートカットが似合うかどうかは顔の輪郭で決まると私は思っているのだが、彼女はまさしくその輪郭を持っている。目のかたちがいい。鼻筋がまっすぐ通っていて、笑うと目尻が下がる。写真では作り込まれた印象を持っていたが、実物のほうが柔らかかった。
扉の前に立っていた人
体つきは細い。肩も腕も、力を入れたら折れそうな細さだ。それでいて胸は薄くない。抱き寄せたときに骨が当たるだろうと構えていたが、当たらなかった。
第一声が「雨、大丈夫でした?」だったのも良かった。
よく笑う人だ。話も途切れない。こちらが黙っていても間が持つ相手というのは、この歳になるとありがたい。部屋そのものは正直狭いのだが、彼女が座ると空気が変わる。
聞けば出勤は週に二日だけらしい。残りの日は何をしているのかと尋ねたら、家で映画を観ていると言って作品名を三つ挙げてきた。どれも私が観ていないものだった。この手の会話が成立する相手は、この商売だとそう多くない。
その夜の記録
湯を使うまで
先に浴室へ入った。洗い場で二人並ぶと、どうしても肩が触れる。彼女は私の背中に手のひらを当て、湯の温度を何度か確かめてから流し始めた。手つきが丁寧で、急いでいる感じがしない。ここで雑にやる人は後もだいたい雑なので、私はこの時間をわりと真剣に観察している。
泡を流し終えたあと、彼女が下を向いて小さく笑った。何かと思えば私の腹回りを見ていたらしい。「触り心地いいですよ」と言われて、褒められているのか慰められているのか判断がつかなかった。
湯を使ったあと
肌を合わせてから
ベッドに上がって、唇から始めた。彼女はキスが長い。舌の使い方に遠慮がなく、こちらが引くと追いかけてくる。首筋から胸へ降りていくあいだ、彼女の手はずっと私の後頭部に添えられていた。男の頭を撫でるのが癖なのだろう。下は毛が一本もない。処理してあるというより、その状態を保っているのが日常なのだと思う。舌を当てると腰が浮いた。
そこから先は主導権を握れなかった。
口でされている時間が長かった。深く咥えて根元を舌で押し上げながら、上目でこちらを見る。途中で一度だけ歯が当たったが、彼女はすぐ気づいて「ごめんなさい」と口を離した。あの反応の速さは経験の量だろう。ちゅぱ、と音を立てて離れる瞬間の顔が、笑っているようで少し困っているようにも見えて、私はそこで一度出しそうになった。
受けに回った彼女は別の人になる。クリトリスは弱いらしく、直接強く触ると腰を引く。舌でゆっくり撫でるくらいがちょうどよかった。力加減を間違えると「そこ、痛いです」と口に出してくれるのは助かる。玩具を出すと目の色が変わって、自分から脚を開いた。開き方が普通ではない。腰から下が柔らかいのだろう。
入れてからが本番だった。細いのに中はきつい。動くたびに締まって、こちらが持っていかれそうになる。前から入れているあいだも彼女は自分の手を下に伸ばして玩具を当てていた。当てながら「やばい、これ…」と漏らして、背中を弓なりに反らせる。反り方が大きい。ビクン、と腰が跳ねて、そのたびに中が締まる。後ろに向きを変えても同じで、枕に顔を埋めたまま自分で当て続けていた。ぬるっと滑る感触と、ねっとり絡んでくる締め付けが交互に来て、私は思ったより早い段階で一度限界が来た。
そのまま、外さずに終わった。
少し休んで、水を飲みながら二度目の話になった。彼女のほうから「まだ時間ありますよ」と言ってくれたので、そのまま続けた。二度目は最初より落ち着いていて、こちらが動かなくても彼女が上に乗って腰を使う。細い身体のどこにその体力があるのか分からない。ただ、途中で一度だけ表情が抜けた瞬間があって、あれは疲れていたのだと思う。そこは無理をさせた。
終わってから彼女は何も言わずにティッシュを取り、先に私のほうを拭いた。自分は後回し。この順番でやる人は多くない。汗が引くまでのあいだ、二人ともベッドに転がって天井を見ていた。
不安がなかったと言えば嘘になる。二時間もつのかという話ではなく、こちらが年上すぎて彼女が退屈しないかという不安だ。結果としては、私のほうが先に音を上げている。
帰りの電車で考えていたこと
二十三時前の電車は空いていた。座席に腰を下ろして、まだ手のひらに感触が残っているのに気づく。腰の細さと、反り返ったときの背中の線。あれを二時間で終わらせたのが惜しかった、と思った時点で、私はもう次の予約のことを考えている。
駅前でラーメンを食べて帰った。塩。
そういえば、部屋を出るときに彼女が私の靴を揃えてくれていた。誰に教わったのか知らないが、ああいうものは後から効いてくる。
よく笑い、よく話し、身体は細くて締まりがいい。長く一緒にいたくなる種類の人で、時間を延ばす客が多いというのも頷ける。週に二日ほどしか出ていないそうなので、出勤に当たった日は迷わないほうがいい。
彼女の名前と店の名前、それから公式ページへの道筋は、有料エリアに記しておく。