錦糸町で傘を畳んだ夜
火曜の夜だった。仕事帰りに電車を降りたら思っていたより雨が強くて、駅前のロータリーで傘を開くのにもたついた。錦糸町という街は、雨の日がいちばん錦糸町らしい。アーケードを外れた通りの灯りが、濡れたアスファルトに滲んで縦に長く伸びていた。
その日は予定もなく、ただ家に帰りたくなかった。それだけの理由でホテル街のほうへ足が向いた。
誰かと話したかっただけなのか、それとも別のものが目当てだったのか、いまでもはっきりしない。
丸妻汁 錦糸町店を選んだのは、たまたま目に留まったからだ。人妻系の看板はこのあたりに山ほどあって、正直どこも似たような顔をしている。それでも在籍の並びの中に一人だけ、写真の空気が違う人がいた。大桃。名前の字面も、なんだか妙に引っかかった。
この店の流れは複雑じゃない。自分でホテルを決めて、部屋に入ってから店に連絡を入れる。あとは待つだけ。指名は写真から選んでもいいし、通ってから決めてもいい。その日の自分は写真から選んだ。連絡を入れてから十分ちょっと。想像していたより早かった。買ってきたお茶をひと口飲んで、テレビのチャンネルを二周させる前にノックが鳴った、というくらいの体感だ。
コースは100分。料金はそこに指名の分が乗って22,000円で、部屋代は別だった。錦糸町のホテル街は駅から歩ける距離に固まっているので、待ち合わせの手間はほとんどない。難点は、その日に飛び込んだ部屋がとにかく狭いことくらいだった。ベッドとテレビの間に立つと肩がぶつかる。
十分後、ドアの向こうに立っていた人
灯りの下で見たもの
背が高い。まずそれだった。175cmという数字は事前に見ていたのに、実際にドアの内側に立たれると想像していた高さとまるで違う。黒髪のロングが少し濡れていて、毛先から雨の匂いがした。
「外、やばいくらい降ってますね」と笑った声が、思っていたより低い。おとなしそうな顔立ちなのに、コートを脱いだ瞬間に部屋の空気の密度が変わった気がした。むちむち、という言葉をこれほど正確に使える体型を自分はあまり知らない。Iカップという申告は、たぶん控えめなほうだ。
指先の温度
先にシャワーを借りて戻ったら、部屋の灯りを一段落としてくれていた。ベッドの端に並んで座って、しばらく何の話もしない時間があった。
最初に触れたのは手だった。指先が冷たくて、外の雨をそのまま持ち込んできたのが分かる。「冷たいでしょ、ごめんね」と言って、その手をこちらの腹に当ててくる。そこからはむしろ会話のほうが先に進んだ。好きな飲み屋の話、休みの日に食べる飯の話、なぜか駅の南口のラーメン屋の話で妙に盛り上がった。とにかく話が合う。
正直に書いておくと、序盤のキスは少しぎこちなかった。角度の探り合いというか、力加減がまだ噛み合っていない感じ。ただそれが五分で消える。消えたあとの落差のほうが、この人の本題だった。
この先は、限定公開のほうに置いておく
笑い声の間隔がだんだん短くなって、どこでムードが切り替わったのか自分でも分からなかった。気付けばこちらの反応のほうを面白がられていて、主導権はとっくに向こうにある。反応が良くなればなるほど、こっちが夢中にさせられていく。そういう順番だった。まじで、順番が逆だと思った。
ここから先は書かない。
感じたところだけ、数字にならない形で残しておく。
ルックス ★★★★☆
スタイル ★★★★☆
おっぱい ★★★★★
アソコ ★★★★☆
感度 ★★★★★
性格 ★★★★★
星の数で伝わるものなんてたかが知れているけれど、感度の欄だけは五個では足りない。それだけ先に書いておく。
鍵を返してから、駅までの十五分
ドアが閉まってからも、部屋に残った匂いだけがしばらく消えなかった。エレベーターで一階まで下りて外に出たら、雨はいつの間にか上がっていた。地面だけがまだ光っている。
コンビニで温かいお茶を買って、わざと遠回りして駅まで歩いた。ホテル街を抜けると急に人の声が増えて、飲み会帰りの集団が信号待ちで騒いでいた。ついさっきまで自分がいた場所と、この歩道の間に膜が一枚あるみたいだった。そういえば名前の由来を聞きそびれた、と気付いたのは帰りの電車の中で、次があるならそこから聞こう、と思ってしまった時点で自分の負けだった。
あの100分の中身と、指名するときに知っておいたほうがいいことは、投稿者限定のほうに書いておく。