渋谷の坂道を上るまで
木曜の夜だった。仕事が長引いて、渋谷に着いたのは二十二時を回った頃。
夕方まで降っていた雨が上がったばかりで、道玄坂のアスファルトがネオンを吸って光っていた。八月の終わりだというのに、まだ暑い。シャツの背中が肌に貼りついたまま坂を上って、もみもみワンダーランドに電話を入れた。
電車の中でずっと考えていたのは、翌日の会議のことでも夕飯のことでもなく、予約した相手のプロフィールに並んでいた数字だった。165センチ、Iカップ。数字だけ見れば作り物みたいだし、この街の広告はだいたい話を盛る。半信半疑のまま、コンビニでミネラルウォーターを二本買ってからチェックインした。
期待していなかった、と書けば嘘になる。
最初の五分で分かったこと
目に映ったもの
インターホンが鳴ったのは、シャワーを浴びて髪も乾かないうちだった。ドアを開けると、廊下の白い光を背負って彼女が立っている。薄手のニットのワンピース一枚で、写真が盛っていないことはその場で分かった。
色が白いというより、光をよく返す肌をしている。笑うと目尻が下がって、二十三歳という年齢よりも少し幼く見えた。
「わ、この部屋きれい。私、窓の大きいホテル好きなんです」
第一声がそれだった。場を温めにきた営業の台詞というより、本当に部屋を見回している顔をしていた。
ルックス ★★★★☆
スタイル ★★★★☆
おっぱい ★★★★★
アソコ ★★★★☆
感度 ★★★★★
性格 ★★★★★
触れてからのこと
シャワーの前に、少しだけベッドの端に並んで座って話した。趣味は手芸だという。もらって嬉しい差し入れはフルーツ。夜の街で働く子の口から地味な趣味が出てくると、こちらは勝手に安心する。
肩に手を回したとき、体温が思っていたより高いことに気づいた。
ニット越しでも分かる重さがあった。両手で包んでも指が余る。柔らかいのに下から押し返してくる張りがあって、掌の中で形が変わっていく。触れているだけで呼吸が浅くなって、「あ、そこ弱いんです」と小さく笑った。指が乳首をかすめた瞬間、肩がビクビク跳ねた。演技をしている顔ではなかった。
灯りを落としてからのこと
ユニットバスは二人で立つには狭い。膝と膝がぶつかって、彼女が笑いながら「ここ、詰めますね」と背中を向けた。泡をまとった手が前から回ってきて、ぬるぬると滑っていく。洗われているのか焦らされているのか分からないまま、シャワーの音だけが天井に跳ね返っていた。
ベッドに戻ってからは、完全に彼女のペースだった。
キスが長い。舌先が触れるか触れないかの距離で止まって、こちらが追いかけると逃げる。首筋から鎖骨、胸へと降りていく間、指の力加減だけは正直に言うと少し強かった。そこは好みが分かれると思う。ただ、そのぶん胸を使う時間の作り方が上手い。Iカップの谷間に沈められて、下から見上げられて、「まだ我慢できます?」と聞かれた時点で勝負はついていた。
攻守が入れ替わったのは、たぶん三十分を過ぎた頃。
脚を開かせて舌を這わせると、五分と持たずに腰が浮いた。太腿が震えて、シーツを掴む指が白くなる。「やばい、出ちゃう」と言った直後、本当に飛んだ。ベッドの上が水びたしになって、二人で顔を見合わせて笑った。まじで飛ぶんだな、と間の抜けた感想が浮かんだ。潮を吹く子は何人か見てきたが、量でも回数でもここまでの子は記憶にない。
そこから先は、遮るものが何もなかった。
ゴムの袋を開ける音がしないまま、彼女が上に乗ってきた。生で入る感触は、体温がそのまま伝わってくるぶんだけ現実味がある。中はきつめで、動くたびに締まった。耳元で息を吐かれるたび、こちらの理性が一枚ずつ剥がれていく。三十分前まで手芸の話をしていた相手と同じ人間だとは思えなかった。
時計を見たら、残りが十分を切っていた。
そういえば、来る前に買った水は一本も開けていなかった。二人でそれを回し飲みして、ようやく息を整えた。
エレベーターが降りていく間に
身支度をしながら、彼女は温泉の話をしていた。今度の連休は草津に行くらしい。ドアの前で「また来てくださいね」と言われて、社交辞令だと分かっていても悪い気はしない。
ドアが閉まって、部屋に音が戻ってきた。エレベーターの降りていく音を聞きながら、まだ湿ったままのシーツをしばらく眺めていた。
帰りに道玄坂の下でラーメンを食べた。深夜のカウンターで汗をかきながら替え玉まで頼んだのは、ずいぶん久しぶりだった。
あの夜の彼女の名前と、彼女に会える場所は、この先の有料エリアに記しておく。