普段は吉原のソープにしか行かない。マットの出来で決まる、という物差し一本で十年やってきた人間だ。それが火曜の仕事帰り、妙に気が立っていて、電車を乗り継いで鶯谷まで出た。ホテルに入ってから店に電話を入れる、というのがここの流れらしい。
気が立っているだけの日にわざわざ谷まで出るのもどうかと思うが、こういう日は決まって近場では収まらない。上野で乗り換えて、ホテルの並びを一本入ったところに部屋を取った。部屋を先に押さえてから電話、という順番がどうにも慣れない。ソープなら店に着いた時点で全部が始まっている。
電話の受け答えは淡々としたもので、今日は誰と誰が空いています、と何人か名前を挙げられた。全部は覚えきれないので一度切って、写真を見てから折り返すことにした。その中にかりんという名前があって、こっちも前から目には入れていた。知らない子に飛び込むより、少しでも輪郭のある方を選ぶ。臆病な選び方だとは思う。
その間にコンビニで買っておいたお茶をテーブルに出しておく。ソープなら受付から洗い場まで店の段取りに乗っていればいいが、デリヘルは部屋の空気を自分で作らないといけない。この待ち時間があまり得意ではない。外は寒いし、部屋のエアコンは音がうるさいしで、落ち着かないままチャイムを待っていた。
ドアを開けたら目線がほぼ水平だった。思わず背が高いねと言ったら、「今日ヒール11cmだから」と笑って、「でも脱いでも168はあるかな」と続けてきた。こっちの雑な一言を朗らかに拾ってくれる子で、この時点でだいぶ気が楽になった。無愛想なのに当たると、こっちも黙るしかなくなるからな。
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部屋に入るとまず店に電話を入れていた。到着確認だろう。目の前でやられると多少は興が削がれるが、こればかりは仕方ない。受話器を置いてからの切り替えは早かった。
写真から想像していた雰囲気とは違った。肩にかからないくらいの黒髪で、ボブというやつだと思う。ネイルもしていない。サイトに並んでいる写真は写真として、実物はもっとそのへんを歩いている子の顔をしている。ただ、細いのに胸には触りごたえがあって、腰が絞れていて、尻には厚みがある。この並びは珍しい方だ。
声は思ったより低くて、笑うと少し崩れる。写真から受ける清楚な感じより、実物のこの崩れ方の方が話しやすい。
「外、寒いね〜」お茶を渡したら、そこから少し雑談になった。
普段は医療関係の事務をしているらしい。しばらくはこの街で働くつもりだと言っていた。話し好きではあるが、時計を溶かすほどではない。ここは外せないところで、雑談で時間を削ってくる子だと後味が悪くなる。その加減はきちんとしていたな。脚が長いので、狭い部屋だと座る場所を探すのに少し困っていた。
シャワーの前に、こっちの段取りが崩れた
「そろそろシャワー行こっか」と促されて浴室へ。ソープの洗い場と違って、ユニットバスは二人で立つと肩がぶつかる。狭い。かりんはしっかり洗ってくれるタイプで、手つきも丁寧だった。
浴室のタオルは薄い。湯気ごと包まれるような、ソープのあの感じはここにはない。ただ、体を洗う手つきそのものは丁寧で、背中から腰までの流れは慣れていた。首の後ろを指の腹で撫でられたときは、素直にいい心地だと思ったな。
ただこっちは自分でゴシゴシやらないと落ち着かない性分で、シャワー借りるね、と途中で手を出してしまった。
「洗い足りなかった? ごめんね」と謝らせてしまった。完全にこっちが悪い。
十年ソープに通っていると、洗体からマットまでの流れで頭が組み上がってしまう。ここにはマットも椅子浴もない。段取りが最初から一つずれたまま、ベッドに移る頃には主導権はもう向こう側にあった。攻めてもらう側から始めることになるとは、部屋に入った時点では考えていなかった。
段取りというやつは、崩れるときは一瞬だな。
この先どうなったかは限定側に置いておく。書ける範囲で言えば、この歳で年甲斐もなく慌てた、それだけだ。
帰りの電車で考えたこと
終電の一本前で帰った。腹が減っていたので駅前でラーメンを食って、伸びかけた麺を見ながらぼんやり考えていた。ソープの物差しはここには持ち込めない、というのが今日の収穫だな。
二時間の組み立てを向こうに持っていかれたのは久しぶりで、それが不快ではなかった。技で押し切るタイプではない。こっちの様子を見ながら手を変えてくる子で、そういうのは十年通っていてもそう当たらない。写真だけで判断していたら、たぶん指名していなかったな。
惜しかったのはマッサージで、力加減が指先だけで終わっていた。本人には言っていない。それでもまた呼びたいと思える子だ。すぐ来られる距離ではないのが面倒ではあるが、それだけで見送るには惜しい。並んで立って目線が水平になる相手はそう多くないからな。