準夜勤が終わったのは、日付が変わる十五分前だった。ロッカーで着替えながら、これは帰っても寝られないやつだな、と分かっていた。夜勤明けの体は変に興奮したままで、布団に入っても三時間で目が覚める。それなら起きてる方がまだマシだ。
先週、店からメールが来ていた。名前は知らない子だったのに、写真だけ見覚えがあった。前に別のところにいた頃から気になっていて、二回か三回問い合わせて、一度も予約が取れなかった子。名前を変えて移っていたらしい。
ドアが開いて、笑顔で挨拶された。この時間に来る客の機嫌なんてたかが知れてるのに、こっちに合わせて軽く笑ってくれるタイプだった。ツンとした空気が一切ない。それだけで肩の力が抜けた。
喋り方はサバサバしていて、いわゆるイチャイチャ系ではない。恋人ごっこじゃなくて、友達と喋ってる感じ。深夜だからこそ、この距離感がちょうどよかった。ベタベタされると逆に疲れる日もある。
部屋に戻ったあとの、この時間帯の空気
鳴き方が会話のときと別人だった
先にシャワーを借りて、戻ったらもうベッドの端に座って待っていた。空調が効きすぎていて、正直ちょっと寒い。リモコンを探して二度上げた。そういうどうでもいいことに限って、あとから妙に鮮明に残る。
横に座って、まず抱きしめた。疲れ切った体に人肌が入ってくる。この時点でもう半分満足していた自分がいる。
キスから首筋に落ちていったところで、空気が変わった。さっきまで友達みたいに喋っていた子が、「ん……」と小さく漏らす。声の高さが会話のときとまるで違う。この落差が全部だったと思う。正直、やばい。
胸に手を置くと、指が沈む。細い子にありがちな硬さがない。乳首は小さくて色も薄くて、舌先で転がすとびくっと体が跳ねた。「そこ、弱いんだって」と自分から申告してくる。こういうことを言う子は大体本当に弱い。
下は完全に処理されていて、指を滑らせるとつるっとしている。太ももの内側を撫でながら少しずつ寄せていくと、脚を閉じようとして、でも閉じきらない。中途半端に力が入っているのが良かった。指を入れると、ぬるっと呑まれる。声が一段上がった。
ここからは、ずっとこっちが動く側だった。普段は疲れてるので受け身で済ませたいタイプなんだが、反応が返ってくると止まらなくなる。夜勤明けにやることじゃない。
耳の後ろ、脇の下、腰骨のあたり。一通り試して、どこが一番効くかを探した。腰骨の内側を舐めたとき、腹が波打つみたいに動いた。「あ、それ、だめ」と言いながら手が頭を押さえに来る。押さえながら離さない。この矛盾がたまらない。
やられてる時の顔がまた良かった。目を閉じて眉が寄って、口が半開きになる。上手い子は表情でも仕事をするが、この子は多分、意識してやってるんじゃなくて素で出てる。受け身のセンスがあるというのはこういうことなんだと思う。
一度落ち着かせてから、口でしてもらった。丁寧だし、こっちの様子を見ながら強弱を変えてくる。ただサバサバした性格そのままで、耳元でねっとり囁いてくるような演出は薄い。そこを求める人には物足りないかもしれない。俺はこの温度でちょうどよかった。
そのまま被せて入った。……いや、被せてはいない。この時間にこの店へ来て何を期待していたのかと聞かれれば、まあ、そういうことになる。
入れた瞬間、脚が腰に回ってきた。思ったよりガッチリ絡んでくる。細い体のどこにこの力があるのか。腕も首に回してきて、逃げ場がない。動くたびに耳元で息が上がっていって、途中から声が言葉じゃなくなった。
途中で一度、上に乗ってもらった。細いのに腰の動きは危なっかしくなくて、こっちを見下ろしながらペースを作ってくる。ただ、先に体力が切れたのはこっちだった。当直明けの持久力なんてこんなもんだ。結局また下から抱えるかたちに戻した。
顔がずっと近い。舌を絡めたまま動いていると、息継ぎのタイミングまで合ってくるような感覚があった。こんなに口を離さない子は久しぶりだった。
最後は口をふさがれた。舌を絡めたまま、抱え込まれるようにして終わった。抜くタイミングも何もない。そういう流れだった。
終わってから、流しもせずに横で喋った。汗が引くまで動く気になれない。向こうも起き上がる気配がなくて、腕の上に頭を乗せてきた。
普段は煙草を吸うらしいが、仕事中は持ち歩かないと言っていた。匂いが残るのが嫌なんだと。そういうところを気にする子だった。
前に接客業をやっていたらしく、とにかく喋りが上手い。こっちが黙っても間が持つ。昼にちゃんと別の仕事があって、出勤は週に一回、多くて二回。専業になる気はないらしい。だから何度問い合わせても取れなかったのか、と今さら納得した。
「前のところでも何回か取ろうとしたんだよ」と言ったら、けらけら笑われた。埋まってたからね、と。悪びれない。
二時間が、体感で四十分くらいだった。
灰皿の脇で缶コーヒーを飲んだ
外に出たら、まだ真っ暗だった。始発まで一時間以上ある。
駅前まで歩いてブラックを買って、灰皿の脇に立ったまま飲んだ。この時間にコンビニで缶コーヒーを買うのは半分習慣みたいなもので、普段は味なんて意識しない。この日はやたら旨かった。単純な話だと思う。
体は限界のはずなのに、頭だけ妙に冴えていた。結局、寝られたのは昼過ぎ。次の連休も同じ時間に電話すると思う。取れる気はしないが。
この子の名前と、どこの店にいるのかは限定エリアに置いておく。同じ時間帯に動いてる人は、見ておいて損はないと思う。