終電を捨てた木曜の夜
夜勤が明けたのは木曜の朝八時だった。帰ってシャワーも浴びずに寝て、目が覚めたら窓の外がもうオレンジ色になっていた。八月の熱帯夜で、タイマーの切れた部屋がサウナみたいに蒸している。
起きた瞬間に、今日は行くと決めていた。理由は特にない。
千葉から乗り継いで三ノ輪に着いたのが二十二時前。この時間帯に開いてる店は、吉原だとそう多くない。ラス前の枠を電話で押さえてから、土手通りをだらだら歩いた。信号を三つ待つあいだに汗が背中を伝ったが、悪くない。夜勤明けの体に、外の熱気はむしろちょうどよかった。
乗り換えの途中でホームのベンチに座ったら、そこで五分寝ていた。夜勤明けにベンチは危ない。危うく逆方向の電車に乗るところだった。
水色りぼんは、看板の水色だけがやけに涼しげに光っていた。入り口で名前を言うと、スタッフのほうが先に「お待ちしてました」と言ってくれた。押しつけがましさがない。この手の受付は、淡々としているほどありがたい。
ロビーで待った十五分
待合はエアコンが効きすぎていて、引いた汗のあとが寒かった。あと椅子が硬い。ここは正直、もう少しどうにかしてほしいところ。
テレビが音を消したまま深夜のバラエティを流していて、字幕だけが動いていた。それを十五分見ていた。夜勤明けの目には、その無音がやけに優しい。
21歳、名前はこのか
階段の上から、こちらを覗き込むみたいに顔を出してきた。「こんばんはー」の声が異常に高い。写真より実物のほうが幼く見えるタイプで、152cmの小柄さもあって、二十一歳と言われても引っかからなかった。
メイクが薄い。吉原のこの価格帯でこの薄さは珍しいと思う。作り込んでいない顔で、笑うと目が完全になくなる。
声まで小さい子かと思ったら、喋り出すとよく笑う。ロビーで固まっていたこちらの緊張が、階段を上る三十秒で全部抜けた。
部屋に上がる階段の途中で、もう腕を組んできた。距離の詰め方が営業のそれではなくて、たぶんこの子は素でこうなんだろう。
ルックス ★★★★★
スタイル ★★★★☆
おっぱい ★★★★☆
アソコ ★★★★☆
感度 ★★★★☆
性格 ★★★★★
数字の話をすると、七月まで五ヶ月連続で本指名の一番だったらしい。入店した月から一度も落ちていないと店で聞いて、思わず「まじで?」と口に出してしまった。吉原でそれは、けっこうな異常事態だと思う。
泡の中でしていた話
部屋は広くはないが、掃除が行き届いていた。浴槽の縁に座らされて、こちらが脱ぐ隙をもらえないまま服を全部持っていかれる。
部屋の照明が電球色で暗い。深夜だからこそ、この暗さがありがたい。夜勤明けの顔なんて、明るいところで見られたものじゃない。
「今日、お仕事だったんですか」と聞かれたので、夜勤明けだと答えた。そこから帰るまで、この子はずっとこちらの体調のほうを気にしていた。水を飲ませてくるし、無理に動かそうとしない。
湯温はややぬるめだった。疲れた体には熱いほうがありがたいので、そこは好みが分かれると思う。ただ、そのぬるさのおかげで長く浸かっていられたのは結果的に良かった。
泡はきめが細かい。背中を洗われているあいだに一回意識が飛んだ。ぬるぬるした手のひらが首筋から肩に回ってきて、そこでまた戻ってくる。力加減はもう少し強くてもよかったが、それを言うのは贅沢だ。
マットは短め。そのぶんベッドに移ってからが長い。
密着したまま、顔と首にひたすらキスをされる。そのあいだ手はずっと動いている。「もっとくっついていいですよ」と言われて、本当に隙間がなくなるまでくっついた。二十一歳の体温は高い。
口を使うときの角度が丁寧だった。焦って動かさない。こちらの反応を見て速度を変えてくる。二十一歳でこれを覚えているのは、たぶん向いているんだと思う。
こちらが触ると太ももがビクビクと跳ねた。演技かどうかを疑う前に、耳が赤くなっているのが見えてしまって、それでどうでもよくなった。
途中で世間話が入るのも良かった。ネトフリで何を見てるか、みたいな話。プレイの合間にそういう時間があると、こっちの力が抜ける。
一度、本気で眠りかけた。夜勤明けの体にあの密着はきつい。それでも起こされなかった。数分、髪を撫でられていた記憶だけがある。あれはやばい。
終わったあと、もう一度洗ってもらいながら、次にいつ来られるかの話をした。営業の誘い文句ではなく、お互いのシフトの話をしていた。
始発を待ちながら
店を出たのが二十三時半すぎ。真夏の吉原は、この時間でもまだ人の気配が濃い。
まっすぐ帰る気力がなくて、日本堤の牛丼屋で並と味噌汁を食った。夜勤明けにこれを食うと、だいたい寿命が縮む気がする。
始発まで一時間半、コンビニの前に座って風に当たっていた。体は軽い。朝日が昇る前に千葉まで帰れた。
プレイの細かいところと、この店の枠の取り方は限定エリアにまとめてある。