二十二時、夜勤明けの体で西川口に降りた
夜勤が明けたのが木曜の朝九時で、そこから昼過ぎまで寝た。起きても体は重いままだった。こういう日は家から一歩も出ずに終わるのが普通なのに、その日はなぜか財布だけ持って駅に向かっていた。
疲れているときほど、人の手で触られたくなる。理屈ではない。
ここ二週間は夜勤が続いていて、家に帰っても寝るだけ、起きたらまた工場という往復しかしていなかった。誰とも三十分以上喋っていない。そういう状態が続くと、体より先に頭のほうが鈍ってくる。風呂に入って、いちばんマシなシャツを選んで着た自分に少し笑った。
電車で西川口まで。ホームに降りたら生ぬるい風が吹いていて、九月前の埼玉はまだ暑い。改札を出た時点でシャツが背中に貼りついていた。夜勤明けの体に、この蒸し暑さは正直きつかった。それでも引き返す気にはならなかったのだから、たぶん相当たまっていたのだと思う。
ビデオdeはんどの入口とDVDの棚
駅から店まで、歩いて三分
西口を出て、飲み屋の看板が固まっているほうへ徒歩で数分。埼玉県川口市のこのあたりは、夜になると人通りだけが妙に増える。目当てのビルはその一角にあって、西川口 ビデオdeはんどはその中に入っている。
この時間帯に開いてる店は西川口だと珍しくもない。ただ、駅から三分というのは疲れた体にはでかい。十五分歩けと言われていたら、たぶんその場で回れ右していた。
前払いと、待合の十分
受付は先払いだった。コースと付けたいオプションを申告して料金を払う。そのあとDVDを三本選んで、部屋に案内されて待つという流れになる。棚の背表紙を眺めて選んでいる十分ぐらいが、仕事の頭から切り替わる時間になっていた気がする。指名は写真とプロフィールを見て自分で決める形で、スタッフに急かされることもなかった。
料金は三十分のコースで六千九百八十円。指名を足しても一万円には届かない。待合は狭いので、混んでいる日は番号を呼ばれるまで壁を見て座っていることになる。この日は前に二人いた。
この値段設定は正直おかしいと思う。
ありさという長身と、六つの採点
ノックのあと「やっほ〜」と入ってきた。初対面のはずなのに、もう何度も通っている客に向ける声の出し方だった。身構えていた自分が完全に置いていかれて、思わず笑った。
背は高い。数字としては百六十八と聞いていたけれど、靴を履いたまま並ばれると目線が自分より少し上にある。挨拶のハグで背中に手を回したら、手のひらの位置が自然に下がって、そのままお尻のあたりに触れた。柔らかいのに押し返してくる、もちっとした弾力がある。ここで固まってしまって、たぶん一秒か二秒、手が動かせなかった。向こうもそれに気づいていて、離れるときに肩を軽く叩かれた。まじで、この時点でもう来た甲斐があったと思った。
眠気は完全に飛んでいた。
顔は写真より輪郭がすっきりしていた。声がハスキーで、それが照明を落とした部屋にやたら合う。二十五歳と聞いていたが、喋り方の落ち着きはもう少し上に感じる。素人っぽさが売りの店にいながら、間の取り方だけは完全に慣れている人のそれだった。
あと、こちらが黙っても場が気まずくならない。これは技術だと思う。夜勤明けの頭では気の利いた返しなんて出てこないので、勝手に喋ってくれる相手はありがたかった。
ルックス ★★★★★
スタイル ★★★★★
おっぱい ★★★★☆
アソコ ☆☆☆☆☆(この業態では触れないのでノーカウント)
感度 ★★★☆☆
性格 ★★★★★
立ったまま始まった数分
座らずに、立ったまま軽く触られるところから始まった。世間話を挟みながら、指先だけがずっと動いている。「どうしてほしい〜?」と聞かれて希望を伝えると、それに合わせた体勢をすぐ作ってくれた。ここから先のことは限定エリアに書く。無料で読めるところに全部並べると、この三十分がただの手順書みたいになってしまうので。
終電を一本見送ってから帰った
終わったあと、拭いてもらいながら喋る時間が長い。そこがこの店の本体なんじゃないかと思うくらいには喋った。そういえば映画とサッカーの話で二回は脱線していて、時間の終わりに先に気づいたのも向こうのほう。
店を出たのは日付が変わる少し前だった。西川口の駅前はまだ人が残っていて、酔って大声を出している集団の横を抜けて改札へ向かう。この街のこの時間は、いつ来ても同じ顔をしている。
帰りにコンビニでアイスコーヒーを買って、駅前でしばらく突っ立っていた。ラーメンを食っていくか迷って、結局やめた。終電を一本見送って、次のに乗って帰った。
疲れが消えるわけではない。ただ、疲れの種類が変わる。それだけで十分だった。