京橋の高架下から
京都から京阪の特急に乗って四十分ほど。京橋という街は、改札を抜けた瞬間に空気が変わる。ガード下に飲み屋がぎっしり詰まっていて、まだ午後の早い時間なのに出来上がった顔の人が歩いている。京都は表と裏があって、裏の顔でも一応は取り澄ましているものだが、この街にそういう遠慮はない。最初から全部脱いでいる街だな、と来るたびに思う。
その日は八月の土曜。駅前の温度計が三十五度を指していた。暑い日の大阪は本当に体力を持っていかれる。仕事を午前で切り上げてきたのに、着く頃にはシャツが背中に貼りついていた。コンビニで冷たい水を買って、飲みながら東野田町のほうへ歩く。
目当ての店は、センチュリービルという雑居ビルの四階にある。
看板は控えめで、初めてだと一度は前を通り過ぎる。
受付は思ったより淡々としていた。先に指名を入れてあったので、名前を伝えて料金を払うだけで終わる。この日は六十分のコースで、室料込み二万円ほど。写真を見て選ぶ仕組みなので、待っている間だけは自分の目を疑う時間でもある。
待合室は正直、狭い。四人も座れば膝が当たりそうな広さで、先客が二人、それぞれ黙って壁のほうを向いていた。エアコンは効いているのに、なぜか落ち着かない。番号札を握ったまま十分ほど待った。
ななせという人
白いニットの午後
番号を呼ばれて、スタッフに見送られながらエレベーターへ。扉が閉まる直前に滑り込んできたのが、ななせだった。
白いニットに黒のミニスカート。肩の下まである黒髪はまっすぐで、とにかく色が白い。写真の印象だと少しきつそうに見えていたのだが、目が合った瞬間に口の前を手で隠して笑うので、その印象は三秒で消えた。
「おつかれさまです」と先に言われて、こちらが挨拶を返す前に半歩だけ距離を詰められる。
それから爪を見せてくれた。パールっぽい下地に、小さな星が散っている。「これ、今週替えたばっかりなんですよ」と手の甲をこちらに向けてくる。服も爪も会うたびに変えているらしく、見せる前提で作り込んでいるのが伝わってきた。ここに手間をかける人なんだな、と思う。
指先の温度
エレベーターの中で、指を絡めるように手を繋がれた。待機室の冷房で冷えていたのか、指先だけ少し冷たい。
外に出ると、今度は腕をぐっと自分のほうへ引き寄せてくる。ホテルまでは徒歩で三分ほど。通りすがりの人がいる中を、腕を組んだまま歩いた。こういうのは京都だとまずやらない。木屋町の奥に入っても、店の外では距離を取るのが暗黙の作法ではある。
道中の会話がとにかく楽しかった。こちらの話を身を乗り出して聞いておいて、笑うところをきっちり見つけて笑う。テンションが上がると「フゥー!」と合いの手まで入れてくる。笑いのツボを見極めて、そこだけを的確に押してくる感じだったな。
部屋の鍵を開けて中に入った瞬間、後ろから両腕で抱きしめられた。耳元で「おかえり」と言われる。
まじで、ここで一度意識が飛んだ。
部屋に入ってからのこと
シャワーの温度を先に確かめて、こちらが暑がりだと言ったらエアコンの風量まで調整してくれる。自分のほうがすぐ体を冷やすタイプだと言っていたのに、である。この気の回し方は、慣れというより性格から来ているのだと思う。
そこから先の話は、限定エリアのほうに置いておく。ここで全部書いてしまうと、この人の一番いいところが安くなる気がする。一行だけ残しておくと、ベッドに入った瞬間、さっきまで声を上げて笑っていた人と同じ人には見えなかった。
六項目の採点はこうなった。
ルックス ★★★★★
スタイル ★★★★☆ 抱くと骨っぽさが少し出る
おっぱい ★★★★☆
アソコ ★★★★☆ ここは限定エリアで
感度 ★★★★★
性格 ★★★★★ 文句のつけようがない
店の前まで、指を絡めたまま
帰りも店の前まで、指を絡めたまま歩いてくれた。行きより話が長くなって、途中で信号を二回見送っている。
見えなくなるまで手を振っていた。
角を曲がってから一度だけ振り返ったが、まだ振っている。
そういえば、と思い出したのは電車に乗ってからで、前に体調を崩して寝込んでいたとき、心配するメッセージをもらったことがあった。文面は短くて、絵文字が二つ付いているだけの、どうということのないものだった。ただ、あのとき画面を見て少し楽になったのは本当で、あの文面の温度と、この日の「おかえり」は同じ温度だったな。営業でここまで揃えられるものではある、と一度は疑ってみたのだが、そう思うそばから馬鹿らしくなった。こちらが得をしている勘定になるのだから、疑って値切る筋合いでもない。
京都へ戻る特急の中で、次はいつ空いているかを数えていた。続きは限定エリアに書いておく。