せんりさんへ、というつもりで書き始めています
先に謝っておくと、あの日は道に迷いました。店の看板は特徴的だから見落とすはずがないと思っていたのに、なぜか二本先の路地まで歩いてしまって、戻ってきたときには約束の時間が近づいていた。二月の終わりの乾いた風の中で、駆け足になったのを覚えている。
翌日が知人の引っ越しの手伝いで、腕がまるまる使えなくなる予定だったんだよね。だからこの日しかなかった。予定を詰め込みすぎるのは自分の悪い癖だと思う。
指名は前々から決めていた。ずっと見ていて、一度会っておきたかった人。ここまで期待値を上げてから行くと、たいてい少し目減りするものなんだけど、この日は違った。
普段は技術の話ばかり追いかけていて、見た目で店を決めることはあまりない。この人に関しては例外だった。写真の段階で脚の長さが尋常じゃなかったので、これは実物を確認しないと気が済まないな、と。結果として、確認するべきだったのは脚ではなかったんだけど。
あの日 — ラビアンローズの待合から、階段の前まで
待合は年季が入っている。椅子は座ると少し沈むし、壁の色も新しくはない。ただ掃除は行き届いていて、埃っぽさが一切なかった。この店は建物にお金をかけるより、掃除の回数を増やすほうを選んでいるんだと思う。スタッフの声のかけ方も柔らかくて、待っている数分が長く感じなかった。
名前が呼ばれてからの十秒
数分待って呼ばれて、そこで初めて向かい合った。
「はじめまして、せんりです」と先に名乗られて、うわ、と声が出そうになった。まず身長。写真で分かっていたはずなのに、実際に立っていると視線の高さが近い。脚が長いというのは、こういうことなんだと納得した。細いんだけど痩せすぎてはいなくて、健康的な太さが残っている。二重の目に力があって、瞳が明るい。この明るさが顔だけじゃなくて全身から出ている感じがあった。
手を繋いだときに、指がやたら綺麗なことに気づいた。爪の形まで整っている。この手で何をされるのかを勝手に想像してしまって、そこで自分の頭の中身の下品さを反省した。
「今日、寒かったですよね」
そう言って歩き出す速度が、こちらの歩幅に合っている。高身長の人は歩幅が広くなりがちで、こちらが小走りになる場面がわりとある。この人にはそれがなかった。階段を上がる前に一度だけ振り返って、こちらの位置を確認したのも覚えている。
ここで一度、手が止まる
部屋に入ってすぐ、まっすぐ目を見たまま近づいてこられた。これが効く。目力のある人がこれをやると、こっちは何も準備できない。キスをされて、その流れで手が伸びてきた時点で、こちらの体はもう答えを出していた。
ここまで書いて、いったん手が止まる。
この先の、胸の先を舐められながら受けた二重の攻めのこと、口を使うときの圧の作り方のこと、そして途中で明らかに変化した締めつけのこと。あれを説明しようとすると、どうしても具体的に書く必要が出てくるので、限定公開のほうに全部回した。技術の話としてかなり面白い体験だったので、そこは細かく書いたつもり。
ひとつだけこちらに書いておくと、こちらの落ち度でひとつ後悔が残った。体位を変えて楽しむつもりだったのに、最初の形のまま終わってしまったんだよね。せんりさんのせいじゃなくて、単純にこちらが保たなかった。次に行くときの課題として置いておく。
総評としては、見た目で選んでも当然満足できるけど、それだと半分損をする人。目に見えないところで細かく体を動かして、こちらの反応に合わせてくる。攻めの種類を細かく切り替えてくるので、次に何が来るのか最後まで読めない。技術というより気配りの話に近いのかもしれない。
帰りは駅の改札前で人と待ち合わせがあって、店を出てから十五分で現実に戻された。翌日の引っ越しの手伝いは、腕がまったく使い物にならなかった。理由は自分でもよく分かっている。