水曜の夜だった。
九月の終わり、昼の残暑がうそみたいに、日付が変わる頃には細い雨が降りはじめていた。新宿三丁目の地下から地上へ出ると、明治通りの信号が濡れたアスファルトに赤く滲んでいて、それを踏んでいくタクシーのタイヤが小さく水を切る音だけが、やけにはっきり聞こえた。
新宿三丁目、終電のあとの細い雨
仕事の打ち上げが長引いて、気づけば終電はとっくに出たあとだった。タクシー乗り場の列は伸びる一方で、並ぶ気力はもう残っていない。
腹だけは妙に減っていて、末広通りの立ち食いそばに入った。かき揚げが油を吸いすぎていて、半分で箸が止まる。壁のテレビでは深夜の通販番組が、誰も見ていない鍋を熱心に売っている。そばつゆの湯気で眼鏡が曇るたびに、今夜はこのまま帰りたくないのだと、自分でもうすうす分かっていた。
帰らない理由を探していた。
スマホで開いたのは、前から名前だけ知っていた新宿区のデリヘル「おっぱいマート 新宿 巨乳」。深夜でも受付が動いている。電話に出た男性スタッフの声は落ち着いていて、こちらが言いよどんでも急かさない。この時間帯の電話でここまで丁寧なのは、正直はじめてだった。
歌舞伎町の奥のホテルに入り、到着を待つ。ベッドの脇を横向きで通らないといけないくらい狭い部屋で、エアコンはやけにうるさい。止めると今度は湿気がまとわりついてくる。仕方なく弱風のまま、窓際の椅子で雨の音を聞いていた。カーテン越しのネオンが、白いシーツを薄いピンクに染めていた。
ドアの隙間から先にこぼれてきた笑い声
ノックは二回、軽かった。
ドアを開けると、本人より先に笑い声が入ってきた。「雨やばいね、傘ぜんぜん意味なかった」と、濡れた前髪を指で払いながら言う。二十代前半、色が白くて、頬だけがほんのり赤い。薄いベージュのニットの上からでも、胸の大きさは隠しようがなかった。
照明をいじったわけでもないのに、部屋がひとつ明るくなった気がした。
人見知りのこちらが話題を探しているうちに、彼女のほうから距離を詰めてくる。「こんな時間まで起きてるの、えらいじゃん」。電子タバコを吸うかと聞くと、いまはいい、あとで一緒に、と笑う。お酒は大好きらしく、次に会うなら飲んでからがいいね、と冗談めかして言った。
隣に座ると、手の甲が触れた。それだけで肌がもちもちしているのが分かる。香水ではなく、柔軟剤みたいな淡い匂いがした。
ルックス:★★★★★
スタイル:★★★★☆
おっぱい:★★★★★
アソコ:★★★★☆
感度:★★★★☆
性格:★★★★★
耳もとから溶けていった九十分
シャワーは一緒に浴びた。泡を胸で受け止めて、背中に回ったときには、ふわふわした重さが肩甲骨にそっと押し当てられる。湯気の中で、彼女は知らない歌を鼻歌で歌っていた。
ベッドに移って、最初はただ抱き合った。キスは浅いところから始まり、何度か重ねるうちに深くなる。雨が窓を叩くリズムと、彼女の呼吸が、いつのまにか同じ速さになっていた。
耳が弱い、と自分で言っていた。耳たぶを唇で挟むと、肩がビクンと跳ねる。「そこ、ずるい」と小さな声。乳首に指を添えると、今度は背中が反った。受け身に回ると、こんなに素直に声が出る子なのかと思った。
ところが少し経つと、攻守が入れ替わる。
彼女が上になり、胸をこちらの胸に重ねてゆっくり滑らせていく。そのまま下へ降りて、口でねっとり濡らしたあと、手でゆっくりとしごかれた。空いたほうの指は、こちらの乳首をずっといじり続けている。上目づかいでこちらの顔を確かめる、その余裕が憎らしかった。
パイズリは、両側から押し包む力が強い。挟まれた瞬間に逃げ場がなくなる感じがあって、息が浅くなる。ただ、ローションを使わなかったので途中で少し擦れて、正直ちょっと痛かった。追加のローションセットを頼んでおけばよかったと、あとで少し後悔した。
正常位の素股に移り、ぬるっと滑る感触に身を任せていたら、彼女が腰に手を回して、小さく言った。
「……このまま、いいよ」
そのままNSになった。ゴムのない熱さが奥まで伝わってきて、動くたびに彼女の声が高くなる。自分から腰を合わせてくる子だった。最後は外に出して、お腹の上に広がったものを、彼女は笑いながらティッシュで拭いてくれた。
雨の音が、急に戻ってきた。
残りの時間は腕枕で話した。好きなオプションは電マだそうで、「次は持ってきてもらって」と悪戯っぽく言う。潮はたまに吹くらしい。今夜は吹かなかった、と少し悔しそうな顔。
かなり遅い枠だったのに、最後まで一度も時計を気にする素振りを見せなかった。それが、いちばん嬉しかった。
午前三時のエレベーター
帰り支度をしながら、彼女は窓の外を覗いて「まだ降ってる」とつぶやいた。エレベーターの前で手を振って、扉が閉まる。
ホテルを出ると雨は小降りになっていて、靖国通りのタクシーは空車ばかりだった。後部座席で流れていくネオンを眺めながら、首筋に残った柔軟剤の匂いを、ずっと探していた。
あの夜の彼女の名前と、指名するときのちょっとしたコツを、この先に記しておく。