新開地の改札を出て福原へ向かうまで
九月の半ば、火曜の昼過ぎ。雨が上がったばかりで、新開地の駅を出たら湿った空気が首のまわりにまとわりついてきましたよ。
昔はね、福原といえば仕事帰りに同僚と連れ立って来る街でした。桜筋のネオンの色も呼び込みの声も、今よりずっと騒がしかった。
ここ数年はすっかりご無沙汰で、久しぶりに足が向いたのは一人の女性の日記がきっかけです。写真を見て「綺麗な人やな」と思って読み始めると、文章が妙な方向へ転がっていく。レモン酎ハイの話から昭和のアニメの話へ飛んで、最後は自分でツッコんで終わる。
こんな文章を毎日書く人が、どんな顔で接客するのか。確かめたくなったわけです。
駅から桜筋までの道すがら、昔よく寄った喫茶店がコインパーキングに変わっているのを見つけて、しばらく立ち止まりました。ナポリタンの皿に粉チーズを山ほどかけて、店のおばあさんに呆れられた店です。二十年も経てば街の顔も変わる。こちらの髪も薄くなるわけですな。
モンテクラブの公式LINEから予約を入れたのが八月の頭で、取れたのは九月でした。ひと月以上待たされて、年甲斐もなくカレンダーに丸をつけて過ごしましたな。
店の受付は二階にあります。外の階段と、駐車場の脇のエレベーターの二通りで上がれる。私は膝をかばってエレベーターにしました。五十を過ぎると、こういうところで素直に楽を選ぶようになります。
受付の男性は言葉づかいが丁寧で、手荷物の確認から待合室への案内まで淀みがない。当日の確認電話も短く要点だけで、こちらが気を遣わずに済みました。高級店の看板に見合う応対でしたよ。
黒木みれいという人の三つの顔
時間になって案内されると、エレベーターの前で待っていた彼女が、私の顔を見るなり吹き出しました。
「なんで笑うんですか」と聞いたら、「いや、なんか、すいません」とまだ肩が揺れている。こっちはまだ何もしてませんよ。
見た目は、黒髪のショートボブに大きな黒目。首が細くて、背は小さいのに立ち姿がすっと伸びている。写真は加工やろと半分疑っていたのですが、実物のほうが肌の質感が柔らかくて、正直ポカンと口が開きました。
ところが、しゃべり出すと完全に大阪のおばちゃん。「お兄さん、膝悪いん? エレベーターで来る人は大体そうやねん」と、初対面で見抜かれました。
いやあ、参った。
それでいて物の言い方はどこか体育会系で、はきはきしている。綺麗なお姉さんと、商店街のおばちゃんと、部活の先輩。一人の中に三つが同居していて、どれが素なのか最後まで分かりませんでした。
そのくせ、こちらの話を聞くときは相槌が細かくて、言葉の選び方に嫌味のない賢さがにじむ。ただ騒がしいだけの人ではないことは、五分も話せば分かります。
褒めると否定されます。「綺麗ですね」と言えば「どこ見てんの」と即答。何度言っても同じ返しをするので、途中からこれは持ちネタなんだと理解しましたな。
六つの星で書き留めておく
ルックス:★★★★★
スタイル:★★★★☆
おっぱい:★★★★☆
アソコ:★★★★☆
感度:★★★☆☆
性格:★★★★★
小柄で線は細いのに、胸元にはちゃんと丸みがある。肌はもちっとしていて、四十という年齢を聞いても数字のほうを疑いたくなりましたよ。
扉が閉まってからの入口だけ
湯を張るあいだの世間話
エレベーターの扉が閉まった途端、彼女のほうから距離を詰めてきました。階数の表示が変わるまでのわずかな時間で、こちらの緊張は半分くらいどこかへ行った。
部屋に入ると、湯を張る音を聞きながらの世間話。前の仕事はエプロンを着ける職人やった、という話に始まって、酒の量を店のスタッフに笑われた話、昔のしくじり話が次から次へ出てくる。
私が若い頃の自慢話を始めると、彼女の目がすっと死んだ魚みたいになるんです。ところが話が人の好みや癖のほうへ移ると、今度は黒目を光らせて身を乗り出してくる。好奇心の強い人なんでしょうな。
年の功で言わせてもらうと、話の引き出しが多い女性は、ベッドの上でも相手をよく見ています。この人もそうでした。ここから先の二時間は、限定エリアに書いておきます。
新開地の立ち飲みで振り返る
帰りは桜筋を下って、新開地の立ち飲み屋で瓶ビールと串カツを頼みました。カウンターの隅で時計を見たら、店に入ってから二時間と少し。体感では一時間もなかった。
不満を言うなら、時間の進み方がおかしいことと、次の予約がいつ取れるか分からないこと。どちらも店に文句を言っても仕方がない話です。
それと、階段で上がる人は膝に気をつけて。
見た目で選んで、話で笑って、帰りの電車で一人思い出し笑いをする。そういう女性でした。部屋の中で何があったかは、限定エリアで。